友人

「銀座のホテルにいるの…もし来れたらちょっと来て欲しい」
いつものちょっとハスキーな掠れた声で電話がかかってきた
いつも厄介な事を簡単な口調で頼んでくる
「何?急ぐこと?」と聞くと「うん…」と答えた
「ホテル?誰かいるの」彼氏との揉め事だったら嫌だなと思いちょっと躊躇すると「誰もいない」と言う返事だった
ホテルの部屋のドアーを叩くと出てきたのは彼女のお母さんだった
彼女の実家は東横線沿線の開業医で、彼女は家から離れて都心のマンションに一人暮らしをしていた
お母さんがいた事で何か有ったのかなと瞬間思った
「お騒がせしてすいませんね…もう私もどうしていいか…」お母さんは途方に暮れたように部屋の中を気にしながら私を招き入れた
事情が分からないまま入っていくと彼女はベッドに寝ていた
私の顔見るとちょっと照れたような笑いを浮かべて「お酒飲み過ぎちゃった…」と言った
「お酒?…どうしたの?」と聞くとお酒を飲んで睡眠薬を多量に飲んで救急車で運ばれたらしかった
「胃の洗浄が苦しくて…」
「洗浄?…そう…」突然の事で私も呆然として、いろいろ聞きたかったがお母さんの手前何かあまり聞けないで
とりあえず「大丈夫なの?…用事って?」と聞くと「部屋に行って取って来て欲しいものがあるの…お母さんじゃわからないのよ」と手を合わせた
マンションが近く、よく遊びに行ってたので頼まれた物はすぐ分った「じゃあ行ってくる」と出て行こうとすると
「あ、あのね…大家がいるかも知れないけど…すぐ引っ越すって言って…」と言われた
「大家さん、何?…引越すの?…何かあったの?」と聞くと、
「何も無いわよ酔って訳わかんなくてガス栓開いたらしいのよ、そしたらそんな危ない事されたら困る、できたら出て行って欲しいって大家に言われたのよ…だから引っ越すことに決めたのよ」
「ガス栓?開いたの…どうしてそんな事…」(死のうと思ったの?)と口に出そうとして黙った
「解らないわよ!酔っ払いだもの」と言った
ちょっと無言で見合ったが「何しろ行ってくる」とホテルから出た
お母さんが送りがてら出てきて、「2度目なんですよ…薬飲むの…救急車で運ばれて…2度目」と言った
2度目の自殺未遂?…
学生時代に父親の診察室から睡眠薬を持ち出して、自殺未遂の騒ぎを起こしたらしい…
彼女とは社会に出てからの知人で、過去の事はあまり知らなかった
彼女のちょっとエキセントリックな部分を見ると…そんな事もあったかも知れないなあと思った

彼女は私より6歳上で語学力に長け、某企業の広報の仕事をしていた仕事などはかなり有能であったが、プライベートな部分では、かなり享楽的で、故にどこか危なげで刹那的な遊び人だった
彼女の遊び友達は仕事などで知り合った、年齢のいった権力を持つ大物が多く、その力を利用して、仕事を優位にして計算高いと、彼女の事をあまり良く言わない人もいた
「女は嫌い…」とよく言い同年代の女性を嫌っていた…彼女と親しい女友達とは会った事はない
おそらく心許した友人はいなかったと思う

その後は何事も無かったように仕事もこなしてよく遊んでいた
どうして薬飲んだの?と後日、聞いたが「眠れなかったのよ…」とたいした理由も無いようだった
短絡的でどこかふざけたところがあり、何か思い付きのような感じで大したことではなかったような感じだった

やがて私は結婚をして日常の忙しさで友人達との付き合いが疎遠になっていった
彼女からは偶に電話があり「まだ別れないの…」と言い「ちょっとD(夫の事)と変わって…」と言い
夫には「上手な別れ方教えてあげる…」と、いつも、二人を構うような電話だった

それから年月が経ち、其々が人生の折り返し地点に立とうという時
彼女が死んだという連絡を受けた
クリスマスが過ぎ年の瀬の押し詰まった頃だった
都内の某ホテルで3日間連泊してお酒と薬を飲んで死んでいたそうだ
死んだ理由は誰にも分らず、2度目の時と同じだった
やっぱり死んだんだ…忘れかけた若い頃の事故のようなあの時の事を思い出した
ちょっと癖のある繊細な笑顔を思い出したが、
本当の笑顔を見た事が無い…と言うか、思い出せない
考えてみたら、刹那的で作りものの様な日常で現実感が何か薄かった
「何で死んだの?」って聞いたら「お酒飲み過ぎちゃった…眠れないから薬飲んだのよ、そしたら目が覚めなかった…」そお言い「何、深刻な顔しちゃって…」ってあのアンニュイな顔で悪戯っぽそうに笑ってるように思えた
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by time2022 | 2015-09-07 06:26 | 日記

2017年 11年目の海辺暮らしとなりました       黄昏て70才 撮りためた写真でその時思った事、今思う事等を、書き綴っていきますブログ内の写真イラストの使用を禁じます

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